外国人雇用
外国人雇用の場合に、ビザ取得費用を肩代わりする場合の留意点
問題の所在
最近では、慢性的な従業員不足に対応するため、外国人を従業員として雇用するケースが非常に増えています。
外国人を雇用する場合に避けて通れないのがビザの問題ですが、会社によっては、ビザの取得費用(手数料、行政書士依頼料等)を立て替えてあげるところもあります。
ただ、会社としても、お店で働いてもらえると見込んで費用を立て替えているわけですから、一定期間を待たずにお店を辞めてしまった従業員からは、立て替えた費用を回収したいところです。
会社の取るべき方法としては、金銭消費貸借契約を締結し、一定期間勤務を継続してくれた従業員には支払いを免除し、逆に、一定期間を経ずに辞めた従業員には返還請求する方法が考えられます。 この場合の法的留意点を検討したします。
法律上の問題点
労働基準法16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と定めています(賠償予定の禁止)。
この規定は、労働者が退職する場合に違約金や損害賠償金を支払わせる定めをすることで、使用者が労働者を不当に拘束し退社の自由を侵害することを防ぐための規定です。
一定期間勤務を継続せず辞める従業員に対して、立て替えた金銭の返還を請求する定めを置くことが同条に反しないか問題になります。
労基法16条違反の判断基準と無効にならないためのポイント
ア 労基法16条違反の判断基準
労基法16条違反か否かについては、①立替費用の業務性の有無・程度、②当該定めが従業員の退社の自由を侵害する程度を考慮して判断される傾向にあります。
業務性については、そもそも業務に関連する費用であればそれを従業員に負担させるのはおかしいということで判断要素とされています。
この点、ビザの取得により得られる利益は、ビザを得た外国人が主として享受するものであり、会社が当該外国人に働いてもらうという利益は主たる利益から副次的に生じたものといえると考えられます。
また、ビザを取得するための費用は、本来的には日本での就労を希望する本人が費用負担すべきものというのが一般的な社会通念とも合致していると考えられます。
退社の自由については、具体的には、①免除までに必要な勤務継続期間が長すぎる場合、②返還請求金額が合理的な実費を超えて過大な場合、③労働者の自由意思に基づく貸付ではなく強制的な貸付制度の場合などについては、従業員の退社の自由を侵害するものとして、労基法16条違反で無効となりうると考えられます。
イ 返還請求の定めが無効とならないためのポイント
以上のような判断基準を踏まえると、返還条項が無効とならないためには以下のようなポイントをおさえる必要があると考えます。
- 返還免除までに必要な勤務継続期間を必要以上に長く設定しない。
- 返還請求の範囲を合理的な実費の範囲内にとどめる。
- 従業員からの要望がある場合に貸し付ける。
従業員の福利厚生のための制度設計をしたにもかかわらず、会社に損害が生じないためにも、上記のポイントをおさえて制度設計してください。
返還免除する場合の財務上・会計上の処理
なお、外国人従業員に一定期間勤務を継続してもらい、当該外国人従業員に貸付金の返済を免除する場合には、貸付金を免除する時点で、「現物給与」として所得税の課税対象となり源泉徴収が必要となり、会計上は貸付金を給与に振り替える処理を取ることになると考えらえます。
詳細については、それぞれ、社労士あるいは社会保険事務所、税理士あるいは税務署に問合せしてみてください。