賃貸終了後

賃貸借終了時における法的留意点

原状回復

賃貸借終了時には、目的物を原状に復して返還しなければなりません。これが、建物賃貸借における原状回復です。契約締結前に原状回復についてどのように定められているかを確認する必要があることについては、賃貸借開始前(4)で説明したとおりです。

ここでは、賃借人が賃貸人の提示する原状回復費用を支払うという定めが置かれていることを前提にお話しします。この場合、賃借人としては、賃貸人が見積書等の形で提示した原状回復費用を支払うことが原則です。しかし、単価があまりに高すぎる、原状回復には含まれないはずの工事項目が含まれている等の理由で、提示された原状回復費用が不当に高額な場合には、その正当性を争うことができます。もっとも、この種のトラブルは長期化しがちで、裁判にまでもつれ込むケースが少なくありません。金額の大きさと訴訟にかかる費用・手間を天秤に掛けて、方針を検討する必要があります。

貸借開始前(4)で述べたとおり、できるだけ、契約締結の段階で、賃借人側で原状回復工事を行うという契約にしてもらうよう努めるべきでしょう。

敷金・保証金の返還

敷金は、建物の賃借人が、賃料その他の債務を担保するために、契約成立の際、予め賃貸人に交付する金銭のことです。敷金は、賃貸借契約が終了する場合には、賃借人に債務の未払いがない限り返還されます。保証金についても、敷金と同様に考えることができます。

もっとも、敷金または保証金の一定割合または一定額を控除して残額を返還する特約が締結されることがあり、このような特約も、控除される額が高額に過ぎるのでなければ有効とされています。このような特約は敷引特約と呼ばれます。

敷引特約は、退去時における目的建物の補修に係る紛争を防止する機能があり、それゆえに合理性が認められています。言い換えると、通常の使用をした場合に生じる劣化や価値の減少(これらを「通常損耗」といいます。)を回復する目的のために敷引特約が置かれるのであり、敷引特約がある場合には、原状回復工事費用の中に通常損耗を回復するための項目を含めることはできないことになります。

なお、敷金・保証金は、賃借人が明渡し義務を履行した後に精算して返還されることになるため、原状回復工事費用をめぐって紛争が生じているケースにおいては、賃貸人が、自己が正当と考える原状回復工事費用を控除して敷金・保証金を返還し、賃借人が、それでは少ないとして、敷金・保証金の返還請求訴訟を提起するという流れになります。

立退き交渉

「普通建物賃貸借」のケースですが、契約期間の満了が近づいてくると、賃貸人から更新拒絶の通知がなされ、以後、立退きをめぐる交渉が行われる場合があります。

貸借開始前(2)で述べたとおり、「普通建物賃貸借」のケースで賃貸人が賃借人に明渡しを求めるには、「正当事由」を備える必要があり、実際には、「正当事由」を補完する要素として一定額の立退料の支払いの申出がなされるのが通常です。

あくまで一般論ですが、この段階で提示される立退料の額は、裁判で争った場合に認められる立退料の額と比較して極めて低廉な水準にとどまるのが通例です。従って、賃借人としては、賃貸人から明渡しを求められた場合には、弁護士に相談して、そもそも明渡しを拒否するのか、条件次第では明渡しに応じてもよいのか、その場合の条件はどのようなものかといった点を整理し、弁護士に交渉してもらうのが得策です。

なお、数は少ないですが、「定期建物賃貸借」や「普通建物賃貸借」の期間が中途の段階で、賃貸人から明渡しを求められることもあります。これは、その建物が存在する地域に開発が入ることになり、賃貸人である建物所有者が、今いる賃借人を追い出して開発に協力することで多額の見返りを得たいという動機のもと、賃借人に明渡しを求めるというようなケースが多いです。 このような場合、賃借人は、賃貸人の要求に応じるべき法的義務はありません(細かいことを言うと、「普通建物賃貸借」において賃貸人に中途解約権が留保されるという特約が付されている場合、その特約は有効なので、解約申入れに正当事由が備わっていれば賃借人は応じる必要がありますが、誰がどう見ても客観的に正当事由が備わっているといえるケースはまずありませんので、少なくとも賃貸人の要求に即座に応じるべき義務はありません。)。従って、賃借人としては、賃貸人の要求には応じないという姿勢を見せつつ、提示される条件次第では聞く耳を全く持たないわけでもないということを示唆して、条件のつり上げを狙っていくことになります。この交渉も、弁護士に委任されることをお勧めします。