従業員がけがをした場合

従業員がケガをした場合の対応

ケース

自分の経営している店はアツアツの激辛スープが売りなのだが、配膳担当の店員がスープを運んでいたところ、うっかり転んでやけどを負ってしまった。やけどは思いのほか重く、その店員はしばらく仕事ができないらしい。

店員がケガをした場合のことは法律でどう決まっているのか

民法上は、原則として過失や契約違反がなければ、使用者は労働者に対して義務を負いません。ですが、企業は労働者を使って事業を行い利益を得ているのに、その事業の過程で労働者がケガなどをした場合に、治療費などが全部労働者持ちというのは不公平だし可哀想だ、とも考えられます。また、労働者は一般的に弱い立場にあることが多いので、保護しなければならない必要があります。

そこで、労災保険法といった法律によって、労働者が業務を行う上でケガなどをした場合には、使用者にそのことについて過失があるかないかに関わらず(つまりは何の落ち度も無かったとしても)、労働者には政府から治療費等が支払われることになっています。これを労災保険制度といいます。

もっとも、労災保険制度によりカバーされるのは、ケガをしたことによって労働者が受けた損害の全てではなく、休んだ期間の給料については6割のみといったように決められています。つまりは、労働者がケガをした事によって生じた損害の中には、労災保険制度ではカバーされない部分があるのです。

その部分については、雇い主に過失や契約違反といった落ち度があった場合、雇い主が労働者に対して賠償しなければなりません。

民法上の責任に対応するにはどうしたら良いか

では、使用者に落ち度があるというのは、一体どういうことなのでしょう。

労働契約法という法律は、「使用者は,労働契約に伴い,労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をするものとする。」と定めています。これは、安全配慮義務と呼ばれていて、過去の裁判例などで、雇い主の義務として認められてきたものです。

この安全配慮義務というのは、要するに、人を雇った時には、その雇われた人が危険な目に合わないように、職場の環境などを整えなければいけない、ということです。この義務は、雇用契約を結んだ以上、当然に使用者に対して課されるものとされています。したがって、もし使用者が安全配慮義務を怠った結果、従業員がケガをした場合、使用者は契約違反をしたことになり、従業員に対して、治療費などの損害を賠償する責任を負います。 ただし、安全配慮義務の具体的内容、どのような職場環境などを整えなければならないかについては、決まった基準があるわけではなく、従業員が行う仕事の内容などによって異なってきます。飲食店の場合であれば、従業員が転倒しないように床の掃除をしっかりさせるであるとか、フライヤーの油交換など危険な作業について、きちんとマニュアルに従った安全な作業をさせるよう努めるといったことが、必要とされるでしょう。

また、たとえ配慮が完全では無かったとしても、労働者の側にも過失があれば、それに応じて使用者の責任は小さくなります。

結局、普段から従業員の安全に配慮した職場環境を構築することが、もしもの場合の時に備える対策といえるでしょう。

上のケースではどうなるか

やけどを負った従業員は、熱い料理を運んでいる最中だったというのですから、業務中にケガを負ったといえます。そのため、政府から労災保険法上の給付を受けることができます。その範囲では、雇い主は責任を負いません。

ですが、雇い主は、転倒しやすい店内環境を放置していた等の落ち度があれば、安全配慮義務違反として民法上の責任を負うことになります。その場合に賠償しなければならない額は、ケガの大きさや従業員側の落ち度等によって異なります。