飲食店におけるキャンセル問題

飲食店におけるキャンセル問題について

問題の所在

最近では、飲食店における予約のドタキャン、無断キャンセルという問題(以下、「キャンセル問題」といいます。)がSNSやマスコミの間でクローズアップされるケースが増えています。

私としても飲食店の経営者として他人事では済まされませんし、飲食店の顧問先からのご相談や各種マスコミからの取材を受けることで、キャンセル問題を何とか解決できないかと心を砕いております。

そこで、飲食店専門弁護士という立場から、この問題を分析し、一定の解決への糸口をご提案いたします。

キャンセル問題増加の背景

ア お客様とお店とのコミュニケーションの欠如

インターネット上の予約システムの普及により、お客様が気軽に予約できるようになった反面、キャンセルについても罪悪感なくできるようになったことが、キャンセル問題が増加している最大の要因であると考えております。

お客様の側に、キャンセルによりお店に迷惑がかけてしまう、損害を与えてしまうという意識が減ってきているのではないでしょうか。

イ システムの不備

インターネット上の予約システムが普及している宿泊施設等での予約と比べ、飲食店の場合、①事前決済システムの導入、②キャンセル規約の設定が遅れています。

そのため、後述するとおり、現実にドタキャン、無断キャンセルという問題が生じた場合に、お店側が生じた損害をお客様から回収するのが非常に難しいという現状があります。

キャンセルする側から見れば、キャンセルしても何等のペナルティも受けないで済むという現状が、キャンセル問題を増加させる一因となっていると考えられます。

キャンセルの法的問題点

ア 民事上の損害賠償責任

飲食店の予約といっても、法律的には、お客様が予約した時点で、お客様とお店との間で飲食サービス提供契約とでもいうべき「契約」が成立します。

そのため、お客様がお店との契約を一方的に破ってお店に損害を与えた以上、法的には、お店はお客様に損害賠償を請求することができるということになります。

注1:コース料理を予約した場合だけでなく、席のみを予約した場合でも同様に考えられるかについて、両者を区別して論じる文献はありませんでしたが、席予約の場合でも、予約時点で、店としては席を確保し予約者に提供する債務を負い、お客様も予約時間に来店し飲食物をオーダーする債務を負うと考えられるので、理論的には、損害賠償の問題は生じると考えられます。ただし、損害の立証、損害額の多寡という観点からは、コース予約のキャンセルの方が席予約のキャンセルよりも、飲食店にとって損害賠償請求しやすいという違いはあります。

注2:事前キャンセルの場合と、無断キャンセルの場合とでは、①前者が準委任契約の解除と損害賠償の問題(民法651条2項)、②後者が債務不履行もしくは受領遅滞に基づく損害賠償の問題と、厳密に考えると法律構成が異なりますが、最終的に損害賠償が可能という結論は異ならないと考えられます。

注3:最初からドタキャンするつもりで大量の予約をしてドタキャンしたような悪質なケースでは、偽計業務妨害罪(刑法233条)といった刑法上の犯罪も成立しうるという点も注意を要します。

イ 損害賠償請求の難しさ

法的に損害賠償請求権が認められるとしても、お店にとって損害を回収するのは至難の業で、泣寝入りをしているというのが現状ではないでしょうか。その理由としては以下のようなものがあります。

①損害の立証が困難であること キャンセル規約を設定していない場合、キャンセル問題が生じた場合には、お店の側が実際に生じた損害を立証しなければなりません。 しかし、用意していた食材の一部を他のお客様に提供したりしてある程度の利益を得た場合等、キャンセルによりお店に生じた損害が実際にはいくらだったのかを立証するのは、実は非常に難しい問題になります。

②交渉・裁判にコストがかかること お客様が損害賠償請求に応じてくれる場合はいいですが、そうでない場合、損害を回収するには交渉や裁判による必要があり、このような時間・費用コストが、お店が損害賠償請求を断念する要因になっていると考えられます。

③相手方の特定が困難な場合があること 電話やメール予約の場合、予約者がお店に対して、真実の個人情報を提供するとは限りません。このような場合、損害賠償請求の相手方を特定することが現実的に非常に困難であると言わざるを得ません。

④お客様相手に事を荒立てたくないという意識が働くこと 飲食店もお客様あっての商売ですので、キャンセルをしたとはいえお客様相手に事を荒立てたくないという意識は当然働きます。

キャンセル問題への対応策

以上のような現状を踏まえ、私からは以下のような対応策をご提案させていただきます。 私としては、キャンセル問題への対応としては、大きく分けて、Ⅰ.飲食店業界・社会が一体となって取り組むべき課題と、Ⅱ.個々の飲食店で取り組むことができる対策の2つがあると考えております。

ア 飲食店業界・社会が一体となって取り組むべき課題

(ア)お客様への啓蒙活動 お客様は、飲食店の経営に関わっていない方が殆どなので、自分がドタキャン、無断キャンセルすることによって、お店にどれだけの損害が生じるのかイメージできていないケースが多いように思います。 材料の仕入代、仕込みに要する費用・時間、他のお客様をお断りすることにより生じる売り上げの減少等、キャンセルによりお店に多大な損害が生じることをお客様に具体的かつ丁寧に伝えることも、キャンセル問題を解決する有力な対策になると思います。

(イ)キャンセル問題が起こりづらいシステムを整えること ①事前決済もしくは手付金のシステムを導入し、②キャンセル規約を整備し、お客様に事前に告知することもキャンセル問題を解決する有力な対策の一つです。 ただ、この方法については、個々の飲食店の取り組みだけで効果を上げるのは難しいので、宿泊ビジネス等を参考にしながら、飲食店業界全体で取り組むべき課題だと考えております。 なお、消費者契約法9条1号により、「契約の解除に伴い事業者に生じる平均的な損害の額を超える金額を徴収する内容のキャンセル料条項は無効」とされるので、キャンセル規約の定め方には注意が必要です。

イ 個々の飲食店で取り組めるもの

(ア)お客様とのコミュニケーションを積極的に取ること (イ)キャンセル規約を設定し、予約時にお客様に規約の内容を説明し同意を得ること (ウ)大型の予約の場合には一定の手付金を前金でいただくこと (エ)万が一に備えてお客様の情報を上手に控えること

現実にキャンセル問題が生じた場合、いくらシステムを整備していても、責任を負うべき人の正確な情報が分からなければ、責任追及はできません。そのため、予約をする人の情報を正確に把握しておくことも必要です。 具体的には、 ①大型の宴会予約の場合には、会社や学校名などの団体名についても申告してもらう。 ②名前、住所、会社名などの情報を記載できる予約票を用意して、当該予約票に記入して予約してもらう。 全ての予約でこのような対応をするのは難しくても、大型の予約に限っては、個人情報の確認を厳格にするということも考えていいと思います。 ③ナンバーディスプレイを利用する。

お店の電話が固定電話の場合、相手の電話番号を把握するにはナンバーディスプレイに申し込まなければなりませんが、月額の利用料が発生するので利用を控えている店舗も多いかもしれません。

しかし、悪質な予約者は、最初から嘘の電話番号を店舗に伝えてくることも多いので、予約時から信用できない予約者を振り分けることができるという意味でも、ナンバーディスプレイは有用だと考えます。